「忘れられた日本人」 宮本常一 著

昭和14年以来、日本全国をくまなく歩き、各地の文化を築き支えてきた伝承者=古老たちから聞き取ったリアルな記録。

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・・・あんたはほんにこの村一番の働き手でありました。

あんたの家の田が重一さの家の下にある。

あんたが、下ではたらいているときに、重一さの親が、今夜は戸をたててはいけんぞ、金平さが仕事をしておるで、というて、表のあかりが見えるようにしておいた。

 

・・・へえ、そうじゃったかのう。わしはまた、あの家はいつまでも夜おそうまで表にあかりをつけてくれているので、鍬先が見えるもんだから夜おそうまで仕事ができてありがたかった。

そのかわり食うものもよう食うた。

うまいの、うまくないのと言うておれだった。

はァ、一日に五ヘン食いましたのう。

朝は三時におきました。そうしておチャノコといって、ごぜんをたべて山へ柴刈にいった。

戻って来て九時頃に朝飯をたべる。これはメンツに一ぱいがきまりでありました。

昼飯はひるからの二時頃で大てい山や田でたべる。

五時にはヨイヂャと言ってたべ、ヨーメシは九時でありました。(P.76)

 

明治期の地方の風景。

ブラック・・・なんて考えはなく、働くのが当たり前で、子どもも大事な働き手だった。

日本の原風景なんでしょう。

 

伝承者がいなくなって、自然に忘れ去られる人と文化がある一方、敢えて忘れるようにされた人々の存在も・・・。

 

日本の歴史・文化は地方の無名の人々によって支えられ、連綿と伝承されてきたのでした。

これからも変わりなく続きますように。