「東京の下町」吉村 昭

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~昭和二年生まれの著者が幼少年期を過ごした大都会の中のふるさと、東京・日暮里。

諏方神社の夏祭り、トンボ採り、ベイゴマ、凧遊び、上野動物園の黒ヒョウ脱走事件、物売り、演芸、火事、映画館、大相撲、初めて食べたカレーそばの味、そして空襲・・・。(本書カバー)

 

以前に読んだノンフィクション「破獄」「深海の使者」「戦艦武蔵」「三陸海岸大津波」~が、とても印象に残っています。

緻密な調査、関係者からの聞き取りに基づき書かれているのは、エッセイ集である本書も同様でした。

 

三ツ矢サイダー・カルピスと並んでドリコノ~なる飲料が冷蔵庫(氷で冷やす)内にあった~とあり、興味津々。

~運ばれてきたカレーそばを食べてみた私は、驚くというよりも呆れた。こんなおいしい食物が、この世にあるのか、と思った。現在、生れてから五十七年余、過去に食べたもので最もうまかった食物は?と問われれば、ためらうことなくその時に口にしたカレーそば、と答える。~(P.156)

 

著者が昭和十五年の冬に初めて食べたという「カレーそば」・・・食べたくなってきます。

結局、食べ物ネタに惹かれていました。

 

「何がいけないかと言えば、荷物だ。大八車で家財を持ち出す者が多かったが、それが道をふさいで燃え、延焼の大きな原因になった。肩に風呂敷包みを背負った人も、その包みが燃えた。今後、大地震があった時は手ぶらで逃げろ」

と言うのが結論であった。昭和二十年四月十三日に空襲で家が焼けたが、父はその言葉通り、何も持たずに谷中墓地に身を避けた。(P.238)

 

著者が父から聞いた関東大震災の話。

現代は、当時と違い火災に強い建物が多いが、この教訓は生きていると思います。

また、現代の衣服は化学繊維製が多いので、どんな影響が出て来るのか?(危ないのでは)が、とても気になりました。

 

~とにかく、過去は過去は美化されがちである。

下町ブームとかで、すべてが良き時代の生活であったかのごとく言われているが、果たしてそうであったろうか。たしかに良きものがありはしたが、逆な面も多々あった。

そうしたことを、私は自分の眼で見、耳できいたまま書くことにつとめたつもりである。~(あとがき)