「陸奥爆沈」 吉村昭

有名な旧日本海軍の戦艦「大和」「武蔵」就役前において、世界最大最強と言われた「長門」級戦艦の2番艦であった「陸奥」が謎の大爆発を起こす・・・。

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~昭和十八年六月八日正午頃、北緯三三度五八分、東経一三二度二四分に位置する柱島泊地(瀬戸内海)の旗艦ブイに繋留中の戦艦「陸奥」(基準排水量三九,〇五〇トン)は、大爆発を起して船体を分断し、またたく間に沈没した。~(P.17)

 

これまでの著者作品とは違い、冒頭は現代(といっても、昭和44年)、別の取材で柱島を訪れたことから、謎の爆沈を起こした「陸奥」の取材に取り組むことになります。

 

日本海軍が誇る大戦艦が戦闘中ではなく、国内の停泊地で突然に爆発し、1,100名もの犠牲者を出した大惨事。

最高レベルの軍機密中の軍機密として扱われ、徹底的に秘匿されたが・・・ウワサは拡がっていきます。

 

 特殊弾頭や爆薬の自然発火・電気系統のトラブルが爆薬に引火・・・様々な見地から原因を探るも特定できない。

実は、「陸奥」以前にも停泊中に謎の爆発を起こした艦艇が幾つか存在し、その中には日露戦争の日本海海戦時の日本海軍旗艦「三笠」も含まれていた!という事実に驚く。

そして、それら爆発事故は、なんと人的要因(過失だったり、故意!だったり)によるものが多いという・・・。

 

「陸奥」の生存者は、秘匿のため南方の最前線に送られてしまうという非情。

 

陸奥爆沈の原因は、爆薬や機械構造ではないようです・・・。

 

~私は、戦争を背景とした作品を幾つか書いてきた。戦争に強い関心をいだいているからだが、その反面には戦争についてなるべくならば書きたくないという意識もある。

戦争は、多くの人命と物資を呑みこみ、土地を荒廃させ人間の精神をもすさませる。

失うことのみ多く、得ることのない愚かしい集団殺戮である。

それを十分承知しながら、人間は戦争の中に没入し、勝利をねがって相手国の人間を一人でも多く殺そうとつとめる。

戦時中少年であった私もその一人だったのだが、私が戦争を書く理由は、自分もふくめた人間というものの奇怪さを考えたいからにほかならない。~(P.12)

 

人間の持つ暗黒面。