「ブラックボックス」 砂川文次 第百六十六回芥川賞受賞作

・・・歩行者用の信号が数十メートル先で明滅を始める。それに気が付いてか、ビニール傘を差した何人かの勤め人が急ぎ足で横断歩道を駆けていく。佐久間亮介は、ドロップハンドルの持ち手をブラケット部分からドロップ部分へと替えた。上体がさらに前傾になる。

サドルから腰を上げ、身体を左右に振って回転数(ケイデンス)を上げる。車体は、振られた身体とはほんのわずかだけ逆方向に傾くが、重心は捉えている。雨音の合間を縫うようにしてラチェット音が聞こえる。速度が上がるにつれて頬を打つ雨粒一つ一つがちくりとした痛みを伴うようになった。

信号なんかで足止めを食らいたくなかった。・・・

 

冒頭から緊張感・臨場感あふれ出ています。

自転車やライダーのヘルメットにカメラが付いている感じで、主人公と一緒に走っているような感覚。

転倒した際の痛みも~。

 

主人公のサクマは書類などを自転車で運ぶメッセンジャー。

収入は高くなく不安定なスポット仕事を請け負う個人事業主で、今風にいうならギグワーカー。

加えてコロナ禍が背景にあります。

サクマだけではない、多くの人が~若者が持つ不安、葛藤、怒りが、やがて許容量を超えて爆発・・・塀の中に行ってしまう。

客観的に見るとどうしようもない人物かもしれないが、自己責任だ!と片付けるには行かないような気もします。

 

・・・自分はずっと遠くに行きたかった。今もそのように思っている。ここで感じる不快感と安心感は両立している。・・・

 

人の心は「ブラックボックス」。

小説だと何となく推し量れるが、現実は自分自身も手を触れることができない面がある?のかもしれない。

仕組みは、よくわからないが動いている社会もそうかも。

現代社会は「ブラックボックス」だらけ・・・。