「首里の馬」 高山羽根子 第百六十三回芥川賞受賞作

・・・この困難な社会情勢の中で、自分ごときがなにを、という思いは強くあります。できることは、今までも、これからも変わらずとても小さなことです。自分の小説の中に書かれている人はいつも、大きなことをしでかしているようでもあり、なんの役にも立たないことをしているようでもあります。でも、この大変な、たいていの場合においてひどく厳しい世界は、それでも、生き続けるに値する程度には、ささやかな驚異に溢れていると思うのです。・・・(受賞のことば)

 

沖縄~首里・港川にある『沖縄及島嶼資料館』で資料整理を、仕事の傍らになんとなく手伝っている主人公・未名子。

彼女の本業?も、ネット上で特定の外国人相手にクイズを出題するという変わった仕事。

出題相手の外国人のバックグラウンドや、突然に主人公の前に現れる宮古馬のヒコーキといい、ファンタジーに溢れています。

物語の根底に流れるのは、その土地の環境・人・文化・生物・歴史・・・。

・・・未名子のリュックに詰まっているのは、数日前まで資料館の中に在ったすべての情報だった。役に立つかどうかなんて今はわからない。でも、なにか突発的な、爆弾や大嵐、大きくて悲しいできごとによって、この景色がまったく変わってしまって、みんなが元どおりにしたくても元の状態がまったくわからなくなったときに、この情報がみんなの指針になるかもしれない。まったくすべてが無くなってしまったとき、この資料がだれかの困難を救うかもしれないんだと、未名子は思った。・・・

 

沖縄の歴史~戦争~米軍基地、先年焼失した首里城、そして毎年やって来る台風、さらには新型コロナ禍。

厳しい環境が土地と人を強くたくましく育んだ。

 

ほんわかファンタジー?の中にも、心を揺さぶる沖縄の声が聞こえます。