荒地の家族
「荒地の家族」 佐藤厚志 第百六十八回芥川賞受賞作
・・・坂井裕治はクロマツの枝を刈っていた。肩の筋肉が熱を持って膨れ、破裂しそうだった。酷使して麻痺しかけている両腕と刈込鋏が一体となって動いた。脇を緩めすぎず、胸筋を絞るようにして枝を刈る。鋏が意思を持ち、ただ手を添えているだけでよかった。・・・
主人公は、植木職人の一人親方として独立した途端、災厄(東日本大震災による津波被害)に見舞われ、家族共々に助かったものの商売道具一切を失ってしまい、更には2年後に妻をインフルエンザで失いシングルファザーに・・・。
災厄から10年以上経過し、復興も進み報道される機会は減ったが、経済的なことや人間関係含め、表立っていないことが数多くある現実があります。
以前に東北地方を訪れた際に見た、巨大な防潮堤や新しさが不自然な街並みを、思い出しながら読み進めました。
また、幼なじみが密漁に手を染める場面では「サカナとヤクザ」を。
著者は書店勤務というが、冒頭部分のように、なかなか肉体硬派?なリアル描写があって、その場に居合わせたかのような感じになります。
「荒地」・・・ではあるが、家族や仲間とのつながりで乗り越えて行けると思う。
災厄当時よく見聞きした「絆」~という言葉は出てきませんでしたね・・・いろんな捉え方があるからかも。