「さぶ」 山本周五郎

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新聞コラム等でよく引用されていたので、気になっていた小説。

・・・小舟町の芳古堂に奉公する栄二とさぶ。才気煥発な栄二と少し鈍いがまっすぐに生きるさぶ。ある日、栄二は身に覚えのない盗みを咎められ、芳古堂から放逐されてしまう。自棄になった栄二は身を持ち崩し人足寄場へ送られるが・・・(本書カバー)

栄二が主人公なのか?さぶなのか?どちらもとてもキャラ立ちしています。

もっとも、誰が主人公だとかはマッタク関係ないか。

奉公人や下働きの人びとの厳しい暮らしぶり~囚人扱いの人足寄場での過酷な環境の描き方は、臨場感があります。

 

さぶの仕込む糊がないといい仕事ができない~立派な襖を仕立て上げる有能な職人の栄二が語るくだりに感動!。

所々に、弱い~社会の隅っこの存在への温かい眼差しが感じられます。

「・・・栄さんはきっと一流の職人になるだろうし、そういう人柄だからね、尤も、栄さんだけじゃあない、世の中には生まれつき一流になるような能を備えた者がたくさんいるよ、けれどもねえ、そういう生まれつきの能を持っている人間でも、自分ひとりだけじゃあなんにもできやしない、能のある一人の人間が、その能を生かすためには、能のない幾十人という人間が、目に見えない力をかしているんだよ、ここをよく考えておくれ、栄さん」

年寄りになるとこういう口をきくから嫌われるんだね、と云って与平は笑った。・・・(P.388)

 

本書は最近復刊されました。

こういう本が求められている時代なのでしょうか。