「破船」吉村昭

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吉村昭作品は、綿密な調査に裏付けされ史実を、作者の感情が排除された淡々と書き綴る文が印象的です。

それがとてもリアルで臨場感あふれる。

 

・・・僻地の寒村に幸をもたらす難破船「お船様」。しかし、今度の「お船様」は疫病神だった。・・・(本書帯)

 

島国日本で、かつては海岸に難破船や鯨などの大型の魚や哺乳類が流れ着き、それを「神」として祭られることがあった~ということを聞いたことがあります。

大型の海洋生物は食料となり~その後、祭られることもあったでしょう。

そして、航海技術が未熟な時代において難破は珍しいことではなかったため、時には外国船も流れ着くこともあったでしょう。

その難破船は、貴重な物品をもたらす「お船様」として待ち望まれていた。

今は紅葉の季節ですが、物語の舞台では山が赤くなる~ことは、「お船様」がやって来る季節を示すものです。

ノンキにきれいだな~と眺めている余裕は無い。

 

「塩焼き」をする場面があります。

能登で今でも行われている揚げ浜式塩田を連想しました。

かつては、物語の舞台のような寒村では当たり前のように、同様のことが行われていたのではないか?。

単に塩を採取するだけでなく、もっと切実な意味があった。

 

個人よりも、家族~そして家族よりも「村」を存続させなければならない・・・という藩政時代の厳しい寒村の現実がすさまじい。

生活ではなくサバイバル。

その地に代々伝わる風習や祭事の原点は「生きること」か・・・。

民俗学の一端を含んだ、とても考えさせられる作品でした。

 

お米・・・大事に食べなければ。