商人心得 伊呂波歌

「質素倹約現金大安売」(作者不詳:1842年)

~商人心得いろは歌~

 いろいろ扱う品は変わろうと、商いの基は変わらぬ。

 ろくに品定めもせず、安値に惚れて買う銭うしない。

 計り売りや枡売りは一目盛多く詰めよ。

 日々の品を現金で買えば金繰りに病まぬ。

 ほどほどの分を守れよ、身分をわきまえぬ者は身を亡ぼす。

 へりくだりて深く腰を折れ、腰の高い商人から物を買わぬ。

 とりつき(初取引)の小商いを大事にせよ、さもなくば蔵は建たぬ。

 近きより遠きへ、正直な商いの波紋の輪は広がっていく。

 りんしょく(けち)をして銭カメを一杯にしても、役に立てねば石ころと同じ。

 盗み物、安くても買うてはならぬ。

 留守番を相手に長居饒舌は災いのもと。

 おりおりの酒席での商談は慎め、気が大きくなりてソロバンが狂う。

 わずかなる利の商いの掛け売りはならぬ。

 掛け売りの高利より現金売りの薄利。

 欲深い押し売りは足元見られて利徳なし。

 たとえ利がなくても見切れ、手元に現金あれば、またよき買い物あり。

 廉直に商いせよ、客を惑わしてはならぬ。

 祖先を尊び、家名を重んぜよ。

 つねづね倹約し、商いの品数を増やせ。

 値切るもほどほど、損をさせれば良い品は持ってこぬ。

 何事も利と誠とは表と裏の関係。

 らくらくと営むに、倹約に勝るものなし。

 むつまじい仲ほど祝儀、不祝儀大事に。

 うかうかと買掛増やすは金欠のもと。

 居間よりも店の普請に金をまわせ。

 のらくら商人は月末に仮病で姿を隠す。

 思わく買いに儲かるためになし。

 くれし物、届け物あれば礼は忘れず。

 やすやすと三十日に昼寝できる現金買い。

 まだ取れぬ売りの儲けの皮算用は夢の中の栄華なり。

 倹約をして災いに備えよ。

 ふかふかと儲けの口車に乗るな、大損の穴に落ちるぞ。

 根を詰めて商いし、遊は目立たぬように。

 柄も知らぬ者から買えば暖簾に傷がつく。

 丁寧に見送り手早く渡せ傘、提灯。

 商いは、ただ、ただ、赤誠をつくせ。

 算段の要は小銭を粗末にせぬこと。

 きをはって客に薦めよ、厳選した一品を。

 ゆく末を思って磨け礼節作法を。

 目の前の利よりも、先々の信用が大事。

 見栄をはる者の台所は苦し。

 始末するも度が過ぎるとただの守銭奴。

 えびす顔の酌に用心、下心あっての事ぞ。

 火の用心、戸締りは念には念を入れて。

 元手の銀に余裕をもって買い付けよ。

 世間を狭くする物を売ってはならぬ。

 末ずえの繁盛を願い日々励め。

 

お疲れさまでした~。