六兵衛の正体

「黒書院の六兵衛」 最終回

前回から怒涛のごとくの展開です。天朝様との対面を終えた”的矢六兵衛”は、自ら立ち上がり辞去?しようとしている。

加倉井隼人の言葉~「どこへ行くのだ、六兵衛」 「のう、六兵衛。水臭いではないか。どうしてこのわしにすら口をきいてくれぬ。このまま黙して去るつもりか」

捨て子のようにべそをかきながら、隼人は息遣いの伝わるほど間近に近寄ってようよう言うた。言いながら地団駄を踏んだ。

するとふいに、六兵衛が双手を拡げて、肩衣の懐深く隼人を抱き寄せた。

驚くよりも、大いなる安息を感じた。まるで雛鳥になった気分であった。

身丈のちがう六兵衛の肩に顎を載せて、隼人は血の滾りを聞いた。

「世話をかけ申した。許せ」 (六兵衛が喋った!天朝様にも口を開かなかった六兵衛が・・・。)

この一言を米にして、生きてゆけると思うた。

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先の世は何ひとつわからぬ。だがどのように困難な時代であれ、的矢六兵衛の声をわが胸の勲として立派に生きてゆかねばならぬ。

「それだけか、六兵衛。おぬしには言いたいことが山ほどあるはずじゃ」

六兵衛は骨を軋ませて肯いた。

「物言えばきりがない。しからば、体に物言わせるのみ」

ああ、これこそがみなの忘れていた武士道であったと、隼人は得心した。

思わず六兵衛の体をまさぐった。背も肩も腕も、鍛え上げられた鋼の硬さであった。

そして探る指先が六兵衛の手の甲を握ったとき、隼人はその筋張った、朽葉のごとき肌ざわりに慄(おのの)いた。

六兵衛の来し方が朧ろに見えたのである。

親に貰うたものはこの体ひとつであった。名も金もこだわるところではなかった。

そもそもおのれのありかはこの身ひとつと思えばこそ、すべてを抛(なげう)って体に物言わせた。

六兵衛の希みとまことの武士道に矛盾は何もなかった。

 

気になる文だけを抜き出そうとしたところ・・・結局まるまるの引用になりました。

六兵衛、スゴイ!。カッコ良すぎる!。

もう正体が誰なのか、知る必要がない。敢えていうならば、武士道の権化。

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二重橋まで、人々に見送られ”的矢六兵衛”は、奥方と御隠居夫婦と二人の男子、若党と中間奴の待つ、西の丸広場へ向かう。

~的矢六兵衛は十月の勤番をおえたのではなかった。三百年にわたる武士の勤仕(ごんし)を、今まさにやりおおして下城するのである。~

 

六兵衛の正体探しと、いかに立ち退かせるか?に注目していました。

余韻嫋々たる最終回です。

時代の大転換期に現われた六兵衛。また、大きな転換期に現われるのか?。

過去から現在に至るまでに実は、既に現われているのかもしれない。その姿を見ているのに気が付かないのかもしれない。

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六兵衛ワールドが終わってしまって寂しい・・・。