天災と国防
日本はその地理的の位置がきわめて特殊であるために国際的にも特殊な関係が生じいろいろな仮想敵国に対する特殊な防備の必要を生じると同様に、気象学的地球物理学的にもまたきわめて特殊な環境の支配を受けているために、その結果として特殊な天変地異に絶えず脅かされなければならない運命のもとに置かれていることを一日も忘れてはならないはずである。・・・
・・・しかしここで一つ考えなければならないことで、しかもいつも忘れがちな重大な要項がある。
それは、文明が進めば進むほど天然の暴威による災害がその劇烈の度を増すという事実である。・・・
・・・もう一つ文明の進歩のために生じた対自然関係の著しい変化はある。
それは人間の団体、なかんずくいわゆる国家あるいは国民と称するものの有機的結合が進化し、その内部機構の分化が著しく発展して来たために、その有機系のある一部の損害が系全体に対してはなはだしく有害な影響を及ぼす可能性が多くなり、時には一小部分の損害が全系統に致命的となりうる恐れがあるようになったということである。・・・
・・・文明が進むほど天災による損害の程度も累進する傾向があるという事実を充分に自覚して、そして平生からそれに対する防御策を講じなければならないはずであるのに、それがいっこうにできていないのはどういうわけであるか。
そのおもなる原因は、畢竟(ひっきょう)そういう天災がきわめてまれにしか起こらないで、ちょうど人間が前車の顚覆(てんぷく)を忘れたころにそろそろ後車を引き出すようになるからであろう。・・・
「天災と国防」 昭和9年 寺田寅彦
長らく積読状態の随筆集ですが、タマ~に開いてみると、ドキッ!とすることが書いてあります。
自然の脅威から身を守るために人々は結び付き、文明を発達させてきた。
その結果、豊かな社会を築きあげることができたが、一旦、自然の猛威に触れると脆い箇所が明らかになり、社会全体がその影響を受けることになる。
82年前からいわれていることが現実に起きています。
今後も同様でしょうし、もっと社会へのダメージが大きくなるかもしれません。
このような書籍や歴史に学ぶことはとても大切・・・。