掃除婦のための手引き書

「掃除婦のための手引き書」ルシア・ベルリン 岸本佐和子 訳

毎日バスに揺られて他人の家に通いながら、ひたすら死ぬことを思う掃除婦(「掃除婦のための手引き書」)。夜明けにふるえる足で酒を買いに行くアルコール依存症のシングルマザー(「どうにもならない」)。刑務所で囚人たちに創作を教える女性教師(「さあ土曜日だ」)~全24編の作品集。

 

「このむきだしの言葉、魂から直接つかみとってきたような言葉を、とにかく読んで、揺さぶられてください。」・・・本帯にある訳者のコメント。

 

現代アメリカ文学?階層社会の上から下層までをスパッ!と縦切りにしたような描き方。

著者自身の、一時期は裕福な暮らしではあったが、後々の波乱の人生に基づく私小説的な内容です。

荒涼とした風景が思い浮かぶニューメキシコのコインランドリー・・・場末感あふれるダウンタウンを走るバス内の光景・・・病院のデトックス棟(アル中治療)・・・刑務所・・・といった舞台が多いが、あまり悲惨・・・を感じなかった。(多少はあったが。)

 

人間の~そこに生きるたくましさを強く感じる。

・・・58番ーカレッジ通りーバークレー行き。不機嫌な白人運転手。天気は雨。日暮れて、混んで、寒い。クリスマスのバスは最悪だ。ラリったヒッピー娘が叫んだ、「降ろせ、このくそバス!」。「次の停留所まで待ちな!」運転手がどなり返した。太った女が、掃除婦だ、いちばん前の席でゲロを吐き、人々の長靴を汚し、わたしのブーツにもかかった。すさまじい臭いで、次のバス停で何人かが降りる。本人も降りる。運転手はアルカトラズ通りのガソリンスタンドにバスを停めてホースで洗い流そうとしたけれど、案の定ただ通路の奥まで広がって、あたりが水びたしになっただけだった。運転手は怒りに顔を真っ赤にして、赤信号を無視した。客を道連れにする気か、とわたしの隣にいた男の人が言った。

オークランド工業高校前。ラジオを抱えた二十人ほどの高校生の先頭に、ひどく脚のわるい男の人がいた。高校の隣が福祉局なのだ。男の人が苦労しいしいバスのステップを上がっていると、運転手が大声で「ああもういいかげんいしてくれ!」と言い、男の人はぎょっとした顔をした。・・・(掃除婦のための手引き書 P.60~61)

 

一年間のうちで最も幸せな時期であろうクリスマスでも、ギスギスした場面はあちこちにある。

やがて日本でもこういう光景が・・・(既にある?)。