大本営が震えた日

「大本営が震えた日」吉村 昭

・・・開戦直前の昭和16年12月1日午後5時すぎ、大本営はDC3型旅客機「上海号」が行方不明になったとの報告を受けて、大恐慌に陥った。機内には12月8日開戦を指令した極秘命令書が積まれており、空路から判断して敵地中国に不時着した可能性が強い。もし、命令書が敵軍に渡れば、国運を賭した一大奇襲作戦が水泡に帰する。・・・(本書カバー)

 

久しぶりの吉村昭作品~手に汗握るノンフィクション。

特に前半の「上海号」遭難を巡る捜索と、遭難機から辛くも脱出できた杉坂陸軍中佐・宮原陸軍中尉・久野陸軍曹長の逃避行は、ド派手なアクション映画さながらのシーンの連続です。

同時に機密書類を滅失せんとして「上海号」が不時着した周辺を爆撃する日本軍の非情さ・・・敵地ゆえに致し方無いのだが・・・。

 

そもそも「上海号」遭難以前に、12月8日の開戦と同時に始まるハワイ真珠湾攻撃やマレー上陸作戦は、奇襲が前提であり、軍隊行動情報はひたすら隠密で、いつ露見するかわからないギリギリの状態だった。

軍事作戦という大きな行動は、細部にまで行動予定が決められていて、一旦動き出したら引き返しや中止が難しい。

特に本書で描かれるのは、史上最大の極秘作戦。

決めた以上は、何としても実行しなければならない~その生々しいまでの記録です。

 

・・・「大本営陸海軍部発表 帝国陸海軍は今八日未明、西太平洋において米英軍と戦闘状態に入れり」

庶民の驚きは、大きかった。かれらは、だれ一人として戦争発生を知らなかった。知っていたのは、極くかぎられたわずかな作戦関係担当の高級軍人だけであった。

陸海軍人二三〇万、一般人八〇万のおびただしい死者をのみこんだ恐るべき太平洋戦争は、こんな風にしてはじまった。しかも、それは庶民の知らぬうちにひそかに企画され、そして発生したのだ。・・・(P.396)

 

現代は、有象無象の情報が溢れる時代だが~本当に大事な、必要な情報は、知ることが出来る状態でしょうか?。