倫敦塔・幻影の盾

「倫敦塔・幻影の盾」 夏目漱石

・・・二年の留学中只一度倫敦塔を見物したことがある。その後再び行こうと思った日もあるが止めにした。人から誘われた事もあるが断った。一度で得た記憶を二辺目に打壊わすのは惜い、三たび目に拭い去るのは尤も残念だ。「塔」の見物は一度に限ると思う。・・・(「倫敦塔」)

 

時々、文学作品を読まなければ~と思い手にした、タイトル作含む7作収録の短編集。

巻末の「趣味の遺伝」は興味深く読めましたが、他作品は馴染みづらく時間がかかってしまいました。(格調高過ぎ?)

「趣味の遺伝」内の日露戦争時の旅順港を巡る戦い描写がリアル・・・「坂の上の雲」かと思うくらい。

現代の地上戦も悲惨さは変わらない。

 

・・・余は色の黒い将軍を見た。婆さんがぶら下がる軍曹を見た。ワーと云う歓迎の声を聞いた。そうして涙を流した。浩さんは塹壕へ飛び込んだきり上って来ない。誰も浩さんを迎に出たものはない。天下に浩さんの事を思って居るものはこの御母さんとこの御嬢さんばかりであろう。余はこの両人の睦まじき様を目撃する度に、将軍を見た時よりも、軍曹を見た時よりも、清き涼しき涙を流す。・・・(「趣味の遺伝」)