「浮世の画家」 カズオ・イシグロ

以前ドラマ化されて、読む前に見てしまった作品。

・・・戦時中、日本精神を鼓舞する作風で名をなした画家の小野。多くの弟子に囲まれ、大いに尊敬を集める地位にあったが、終戦を迎えたとたん周囲の目は冷たくなった。・・・(本書カバー)

ドラマでは描かれていないシーンもあったが、おおよそドラマの場面を思い出しながら読み進みます。(渡辺謙が登場)

一人称で語る「私」が過去の記憶を辿る展開。

作中の戦後(1948年~1950年)日本は、日本なんだけど~どことなく日本ではないような感じがします。アジアの何処かの租借地?のような。

作者自身は1954年生まれで、5歳の時に渡英しています。

作品中の雰囲気が「日本」とは感じられない要因のひとつかもしれない。

・・・現在のような苦難の時代にあって芸術に携わる者は、夜明けの光と共にあえなく消えてしまうああいった享楽的なものよりも、もっと実体のあるものを尊重するように頭を切り替えるべきだ、というのがぼくの信念です。画家が絶えずせせこましい退廃的な世界に閉じこもっている必要はないと思います。先生、ぼくの良心は、ぼくがいつまでも<浮世の画家>でいることを許さないのです。・・・(P.277)

読み終えた後に、あらためて加筆された「序文」を読むと~なるほど!と腑に落ちます。

「浮世の画家」でいられることは、平和な時代背景が必要なのだなぁ。