「闇市」 マイク・モラスキー

貨幣・・・太宰治 軍事法廷・・・耕治人 裸の捕虜・・・鄭承博

桜の下にて・・・平林たい子 にぎり飯・・・永井荷風 日月様・・・坂口安吾

浣腸とマリア・・・野坂昭如 訪問客・・・織田作之助 蜆・・・梅崎春生

野ざらし・・・石川淳 蝶々・・・中里恒子

 

・・・闇市とは。戦中から戦後にかけて存在していた違法の市場である。とりわけ戦後の闇市は、食料から衣類や日常雑貨まで、日々の暮らしに必要なありとあらゆる物資が売り買いされる場所であった。終戦直後、政府からの配給食料は全く不足していたにもかかわらず、引揚げや復員で人口は急激に増えていた。そんな極限の困窮状況のなかを生き延びるためには、人々は闇市に頼らざるを得なかった。違法とはいえ、全国の主要な鉄道駅付近に闇市が大っぴらに開かれており、「必要悪」として当局にもある程度黙認されていたのである。・・・(はじめに)

 

その「闇市」を扱った作家たちの短編集。

どの作品も「人間らしさ」が詰まっています。

誰しも戦中戦後の混乱期を生きるために必死。

実体験はないが、各作品を通じて当時の状況~混乱が映像を見るように感じられます。

 

個人的には冒頭の「貨幣」が好きですね。

絶望と欲にまみれた中にも人のやさしさと、わずかな希望が感じられました。

 

・・・おぼろげながら今掴めて来たのだ。俺が今まで赴こうと努めて来た善が、すべて偽物であったことを。喜びを伴わぬ善はありはしない。それは擬体だ。悪だ。日本は敗れたんだ。こんな狭い地帯にこんな沢山の人が生きなければならない。リュックの蜆だ。満員電車だ。日本人の幸福の総量は制限されてんだ。一人が幸福になれば、その量だけ誰かが不幸になっているのだ。・・・「蜆(P.282)」

 

とてもシリアスな文章・・・日本を世界に読み替えることもできる。

 

どの作品も印象深い。

このように、文学作品として鑑賞できる現代に感謝。

 

当地の飲食店街にも「闇市」の名残りはありますね。

次回、訪れる機会があれば、ノスタルジーではなく、人々が懸命に生きた証として見てみようと思います。