「残像に口紅を」 筒井康隆

・・・「では、それを試してみようじゃないか。もしひとつの言語が消滅した時、惜しまれるのは言語かイメージか。つまりは言語そのものがこの世界から少しずつ消えていくというテーマの虚構。それが今日ぼくの持ってきたプランなんだけど、現在君とぼくとがこうやって話している現実がすでに虚構だとすれば、この小説はもう始まっているわけだし、テーマ通りのことが冒頭から起こっているということにもなる」・・・(P.18)

 

日本語表記の「音」が、少しづつ消えていく世界(虚構)の物語。

「あ」「ぱ」「せ」「ぬ」「ふ」「ゆ」「ぷ」「べ」・・・あいうえお順ではなく濁音・半濁音~ランダムに消えていきます。

「あ」が使えなくなると、「愛」も「あなた」も消えてしまう、世界からひとつ、またひとつと言葉が消えていく。

人物も物体も行動も~「音」が消えることで、そのものを他の言葉で言い換えられない「モノ」は、世界から消えていくのでした。

 

物語はいつしか、現実と虚構?が錯綜し、混沌としてくる。

「物語」なので、「音」が消えることを止めることもできただろうに・・・。

作者自身も思い通りにならない超虚構に陥っています。

筒井康隆の凄まじいばかりの語彙力に圧倒されました。

 

世界から「こ」と「ろ」と「な」が消えている・・・虚構(希望)。