「イラク水滸伝」 高野秀行

・・・中国四大奇書『水滸伝』は、腐敗と悪政がはびこる宋代(十~十三世紀)に、町を追われて住めなくなった豪傑(好漢)たちが普通の人が近づけない湿地帯の中に続々と集まり、政府軍と戦う物語だ。世界史上には、このようなレジスタンス的な、あるいはアナーキー的な湿地帯がいくつも存在する。水滸伝自体、山東省の湿地帯に実在した盗賊集団をモデルにしているというし、他にも、ベトナム戦争時のメコンデルタ、イタリアのベニス、ルーマニアのドナウデルタなどがある。(・・・)イラクの湿地帯はその中でも最古である。なにしろ、至近距離で人類最初の文明が(メソポタミア文明)誕生しているのだ。文明が誕生したとほぼ同時に、文明(国家的な権力)から逃れるアジール(避難所)が出現したのかもしれない。「元祖・梁山泊」といってもいい。イラクではそれがつい最近、一九九〇年代まで続いた。反フセイン勢力が湿地帯に逃げ込んで抵抗していたらしい。・・・(はじめに)

 

昨年9月頃から積読(熟成)・・・してあり、ようやく読めました。

著者は「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをし、誰も書かない本を書く」をポリシーとするノンフィクション作家です。

アフワール(湿地帯)をタラーデ(伝統的な船)に乗り巡りたい!と、2017年からコロナ禍を挟み2022年にかけて、相棒の山田隊長と共にイラクへ。

2024年2月現在も、ほぼ全土にレベル4・退避勧告、レベル3・渡航中止勧告が発令中で、危険な場所であるのは変わらないようですが、なんだか楽しそうな気もします。(慣れている?ベテランだからでしょうけど)

いまだにアメリカと日本がイラクを避けて?いるようだが、他のヨーロッパ・中東湾岸諸国・中国・韓国はどんどん企業進出しているらしい。

とは言ってもまだまだ政情不安であり、環境変化で湿地帯が減っているイラク国内だが、メソポタミアの時代から、その民はたくましく、したたかなです。

そして、度々登場する美味しい?らしい「マスグーフ(鯉の円盤焼き)」に注目・・・食べる機会はあるか?。

 

・・・「湿地帯の将来は暗い。でも今日は楽しもう!!」 今を楽しく生きる。やれることをやる。それが水滸伝の好漢たちの心意気だ。・・・(あとがき)